• 徳島大学 大学院医歯薬学研究部
  • 徳島大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

Department of Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences

難聴

1. 鼓室形成術の術後成績

2000年~2004年の間に当科で真珠腫性中耳炎に対して鼓室形成術を施行し、長期に経過を観察し得た46例を対象に、2000年に日本耳科学会から提案された「聴力改善に対する成績判定」に基づいて術後の聴力成績を検討した。聴力改善は60.9%(28/46耳)であった。当科における真珠腫性中耳炎手術の基本術式は、外耳道削除型鼓室形成術であり、連鎖再建は軟骨を用い、再建法はⅢc型が最も多かった。筋膜を用いた軟性外耳道後壁再建術や耳介軟骨と骨パテを用いた乳突洞部分充填術を併用することにより、観察期間中には真珠腫の再形成性再発および軟性再建後のポケット生成を認めなかった。また、術後の乳突腔障害を予防することができた。

2. 二次性真珠腫の発生機序

二次性真珠腫の3症例を検討した。3症例とも上皮がツチ骨柄周囲の鼓膜穿孔縁より鼓膜裏面に侵入し、オープンタイプの真珠腫を形成していた。2症例は鼓膜穿孔が大きく、経過が長いという二次性真珠腫の特徴を有していた。症例3は、外傷による鼓膜小穿孔にMRSAによる感染が持続して、短期間に二次性真珠腫が発生した。上皮の鼓膜裏面へのまくれ込みや高度の炎症の持続などの条件がそろえば、大穿孔や長い経過がなくとも2次性真珠腫が形成される可能性が考えられた。

3. ブロー液の抗菌作用に関する細菌学的検討

ブロー液は13%酢酸アルミニウム溶液であり、耳用局所薬として開発された。ブロー液の抗菌作用を10倍段階希釈法と標準平板法による検討した。ブロー液は、MRSAを含むほとんどの種類の細菌や真菌を、オフロキサシンよりも短時間で死菌に至らしめた。この結果から、ブロー液は菌の増殖抑制ではなく殺菌的に作用すると考えられた。

4. 剣道難聴の発症機序

剣道難聴には、2000Hz-dip型、4000Hz-dip型、2000Hzと4000Hz障害を中心とした様々な聴力型が認められた。剣道難聴の2000Hzの感音難聴は、竹刀による強い内耳への衝撃が繰り返されることにより内耳が障害されて発症し、4000Hzの感音難聴は竹刀による打撃音による騒音性難聴と考えられた。剣道難聴は、機序の異なる2000Hzと4000Hzの感音難聴が独立して発症、進行するため、複雑な聴力型を示すと考えられた。

5. 突発性難聴の2次治療としてのPGI2とビタミンB12の比較試験

発症後2週間以内にステロイド大量療法を行った突発性難聴患者で、治癒に至らなかった症例を対象とした。同意取得の後、対象患者を無作為に2群に分け、一方にはPGI2誘導体であるプロサイリン120μg/日を投与し、他方にはメチコバール1500μg/日を単独で投与した。投与期間は原則12週間である。2次治療終了後の平均聴力には差を認めなかったが、プロサイリン投与群において2次治療前後の平均聴力が有意に改善した。しかし、メチコバール群では平均聴力に差を認めなかった。以上の結果から、突発性難聴におけるステロイド治療後の2次治療として、プロサイリンの有用性が示唆された。

6. 突発性難聴後の耳鳴

突発性難聴の治療後に難聴が固定した46症例の耳鳴につき、アンケート調査を行った。突発性難聴と診断されてからアンケートまでの期間は平均4年1か月であった。46人中、耳鳴を自覚していたのは29人(63%)であり、そのうち20人は耳鳴を気にしておらず、耳鳴を苦痛に感じたり、耳鳴が日常生活に影響していた患者は少なかった。突発性難聴罹患後に長期間経過すれば、患者は残存する耳鳴をそれほど気にしておらす、生活にはほとんど影響がないことがわかった。耳鼻咽喉科医は、患者に「耳鳴は治らない」と軽々しく説明をして、患者に耳鳴による苦痛が持続すると誤解させるべきではない。

7. 騒音性難聴

徳島県にある特殊用紙を製造する工場で、騒音性難聴担当医である耳鼻咽喉科専門医が従業員約500名の聴覚管理を行っている。平成9年と平成20年の聴力検査の結果を比較した。その結果、騒音性難聴者の割合は、44.9%から26.2%に減少していた。騒音性難聴者は、大部分が管理区分Iの要観察者であった。耳栓の着用率は、57.6%から70.3%に改善していた。企業側の作業環境の整備に加え、従業者の意識の向上から騒音性難聴の発生率が低下したものと考えられ、耳鼻咽喉科専門医による聴覚管理の重要性が認識された。

8. MPO-ANCA陽性の自己免疫性内耳障害

中耳炎様の耳症状で発症し、感音難聴に眼振や顔面神経麻痺を伴うことはあっても肺や腎に病変を認めず、経過観察期間を含めて顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis)や(Churg-Strauss症候群)の診断基準を満たさない、MPO-ANCA陽性でPR-3-ANCA陰性の内耳炎症例が存在する。また、ステロイドの効果は限定的であるが、早期に免疫抑制剤と併用することで感音難聴や顔面神経麻痺の回復が可能である。このようなMPO-ANCA陽性内耳炎症例を報告し、厚生労働省科学研究費補助金、難治性疾患克服研究事業、自己免疫性内耳障害の実態把握のための多施設研究に参加して検討を行った。