• 徳島大学 大学院医歯薬学研究部
  • 徳島大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

Department of Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences

味覚

1. 亜鉛酵素「アンギオテンシン変換酵素」活性比を用いた味覚障害患者の亜鉛栄養状態の評価

味覚障害は亜鉛欠乏症の症状の1つである。しかし、血清亜鉛値が正常な味覚障害患者であっても亜鉛補充療法により味覚が改善することから、味覚障害患者のなかには潜在的な亜鉛欠乏性味覚障害患者がかなり存在していると考えられてきた。同時に、血清亜鉛値が亜鉛の栄養状態の評価として適していないことも示唆されてきた。我々は、新しい亜鉛栄養状態の評価法としてアンギオテンシン変換酵素(ACE)活性比を開発し、臨床検査として応用した。

A. 新しい亜鉛栄養状態の評価法であるACE活性比の開発

ACEは活性中心に亜鉛を必要とする酵素であり、血中には亜鉛と結合した活性の高いholl-ACEと、亜鉛と結合していない活性の低いapo-ACEの2種類が存在している。最初に血液のACE酵素活性を測定すると、holl-ACEの活性を測定することになる。次に、in vitroで血液に十分量の無機亜鉛を添加してからACE酵素活性を測定すると、apo-ACEにも亜鉛が結合してholl-ACEとなり、より高い酵素活性が測定される。亜鉛添加後の酵素活性から亜鉛添加前の酵素活性を引くと、はじめに存在していたapo-ACEの活性を知ることができる。holl-ACE に対するapo-ACEの比がACE活性比である。ACE活性比が高いほど、亜鉛が欠乏していると考えられ、亜鉛栄養状態の評価に用いることができる。

B. ACE活性比で評価した味覚障害患者の亜鉛栄養状態

味覚障害を引き起こす明らかな原因がなく血清亜鉛濃度が異常低値を示した「亜鉛欠乏性」味覚障害患者と、血清亜鉛濃度が正常範囲内であった「特発性」味覚障害患者の亜鉛栄養状態を、ACE活性比で評価した。「亜鉛欠乏性」味覚障害患者のみならず、「特発性」味覚障害患者もACE活性比が健常人と比較して異常高値を示した。この結果は、血清亜鉛値で評価した特発性味覚障害患者も、亜鉛欠乏が原因の味覚障害であることを意味している。

C. ACE活性比で評価した味覚障害患者に対する亜鉛補充療法

プロマックによる亜鉛補充療法を、「亜鉛欠乏性」味覚障害患者と「特発性」味覚障害患者に行った。「亜鉛欠乏性」味覚障害患者と「特発性」味覚障害患とも、VASで評価した味覚障害の自覚症状が改善した。両群とも、亜鉛欠乏が原因の味覚障害であることを意味している。さらに、「亜鉛欠乏性」味覚障害患者と「特発性」味覚障害患とも、亜鉛補充療法後のACE活性比と自覚症状の改善との間には有意は相関を認めた。しかし、両群とも血清亜鉛値と自覚症状の間には相関を認めなかった。

D. 味覚障害患者の亜鉛摂取量

味覚障害患者の亜鉛欠乏の理由として、1)亜鉛の摂取不足、2)薬物や食品添加物による亜鉛のキレート作用、3)腸管からの亜鉛の吸収障害など考えられる。薬物など明らかな亜鉛欠乏を引き起こす原因のない亜鉛欠乏性味覚障害患者の場合は、従来から亜鉛の摂取不足が原因と考えられてきた。しかし、これを裏付けるデーターはなかった。我々は味覚障害患者および年齢をマッチさせた健常成人の管理栄養士による食物摂取頻度調査を行った。その結果、「亜鉛欠乏性」味覚障害患者と「特発性」味覚障害患ともに、亜鉛の摂取量は健常成人との間に差を認めず、亜鉛摂取不足による亜鉛欠乏が味覚障害の原因である可能性は否定的であった。