• 徳島大学 大学院医歯薬学研究部
  • 徳島大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

Department of Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences

耳鼻咽喉科・頭頸部外科の病気

頭頸部腫瘍

頭頚部腫瘍とは

頭頸部腫瘍とは顔面頭蓋、頸部に発生する腫瘍の総称で、首から上の腫瘍を指します。脳・脊髄の中枢神経系や眼窩内の病変は除きます。発生部位は口腔、咽頭、気管、食道、鼻・副鼻腔、外耳・中耳、唾液腺、甲状腺、リンパ節、皮膚、骨・軟骨、軟部組織など非常に多彩です。頭頸部の悪性腫瘍の発生率は全悪性腫瘍の5%程度を占めます。

代表的な腫瘍として聴器腫瘍、鼻・副鼻腔腫瘍、口腔腫瘍、上咽頭腫瘍、中咽頭腫瘍、下咽頭腫瘍、喉頭腫瘍、唾液腺腫瘍、甲状腺腫瘍などがあります。

頭頸部癌における発癌要因

頭頸部癌の発癌要因として長期にわたる外的発癌危険因子への曝露が挙げられます。発癌危険因子として長年の喫煙や飲酒の慢性刺激が代表的なものです。その他に慢性炎症、放射線、ウイルスなどの関与が考えられています。

喫煙が関連している癌でも頭頸部癌は代表格で、喉頭、口腔、中・下咽頭癌が特に喫煙と関係しています。喉頭癌患者の喫煙率は95%以上ときわめて高率で、病理学的にも喫煙が上皮の発癌促進作用があることが明らかになってきています。

アルコールは元来、発癌物質ではないのですが、多くの場合タバコとの相乗効果で発癌母地を作ると考えられています。これらの刺激を受ける口腔、中・下咽頭、食道、声門上部では共通の発癌因子として作用すると思われます。

慢性炎症が発癌に関与しているものとして上顎癌や中耳癌があげられます。実際上顎癌は副鼻腔炎の減少にともなって激減してきています。

頭頸部悪性腫瘍の病期分類

現在臨床で広く用いられている頭頸部悪性腫瘍の病期分類はUICCで定められたTNM分類です。頭頸部腫瘍では鼻・副鼻腔、口腔、上・中・下咽頭、後頭、唾液腺、甲状腺の腫瘍があげられています。

T分類は原発巣の癌の大きさ・周囲への進展の程度をあらわしています。数字が大きくなるにしたがって原発腫瘍が進行しているということになります。N分類は所属リンパ節(頚部リンパ節)への転移の程度をあらわしています。T分類、N分類は各腫瘍によって基準が決められています。M分類は遠隔転移をあらわしていて、離れた臓器への転移のすすみ具合を示しています。

MX 遠隔転移の評価が不可能
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

喉頭癌

基本的概念

喉頭は嚥下・発声・呼吸機能などを併せ持つ多機能な器管です。そのため喉頭の腫瘍性病変はそれぞれの機能を障害して嚥下障害・嗄声・呼吸困難・咽喉頭異常感などの症状を呈します。喉頭にできる腫瘍性病変としては喉頭癌のような悪性腫瘍以外にも良性悪性の境界病変といわれる白斑症、肉芽腫・乳頭腫などの良性疾患もあります。しかし良性のものでも大きくなり気道を閉塞することにより呼吸困難などが起こり得るので注意が必要です。

喉頭癌は頭頸部悪性腫瘍の中では最も頻度が高く、ほとんどが扁平上皮癌です。男性と女性の比は10:1と圧倒的に男性が多く、ヘビースモーカーであることが多いです。過度の飲酒、大気汚染、熱い食べ物の常用、声の酷使、慢性の炎症などが関係しているとも言われています。また喉頭は声門上・声門・声門下の3領域に分けられ、リンパ流の関係から声門上・声門下癌は頸部リンパ節転移をきたしやすいです。

症状

喉頭腫瘍で最も多い症状は嗄声です。喉頭癌の場合でも特に声門癌では早期に嗄声が生じるので早期発見されやすいです。声門上癌では初期には咽喉頭の異常感があることが多いく、声門に進展すると嗄声を生じます。声門下癌では初期は無症状で声門に進展すると同様に嗄声を生じます。どの部位の喉頭癌でも増大して潰瘍化すると出血や嚥下痛をおこすようになります。

分類
TNM分類
治療

喉頭癌は他の頭頸部癌に比べて根治率は高く予後は比較的良好といわれています。治療を行う場合はできるだけ喉頭の機能温存を図りながら癌の根治を目指します。当科では早期癌(T1、T2)の場合、放射線治療を60~70Gy行っています。放射線治療と共にシスプラチン少量同時併用することもあります。進行癌(T3、T4)や放射線治療で根治が難しいと判断した場合では基本的には外科的手術療法による喉頭全摘出術を行います。

舌癌・口腔癌

基本的概念

口腔腫瘍は視診・触診は比較的容易ですが、口腔内にできている腫瘤や潰瘍が良性腫瘍か悪性腫瘍か、非腫瘍性潰瘍か嚢胞かなどの診断によって予後や治療が全く異なってきますのでできるだけ早期の専門医への受診をお勧めします。特になかなか治らない口内炎は要注意です。

口腔内にできる良性腫瘍は乳頭腫、多形腺腫、血管腫、歯原性腫瘍などがあります。乳頭腫はパピローマウイルスの関与が指摘されていて、不完全な切除は再発を生じやすく悪性化の報告もあるため完全切除と経過の観察が必要です。血管腫は生化時あるいはその直後から認められる暗紫色の腫瘤で急速に増大することもあり、レーザーによる焼灼治療が必要な場合もあります。また、腫瘤状ではありませんが口腔内、特に舌に白斑症という病変がおこることがあり、数%は悪性化するといわれており、厳重な切除・経過観察が必要です。

口腔腫瘍にできる悪性腫瘍としては扁平上皮癌がほとんどで、その半数ぐらいは舌癌です。口唇癌は非常に頻度が少ないです。舌癌は40~60歳代に多いですが、最近の高齢化で70歳以上の増加傾向がみられます。

症状

口腔癌の症状は痛み、しみる、しこりが主なものです。良性腫瘍は腫瘤以外には原則として無症状ですが、悪性腫瘍でも初期には無症状のことが多いです。口腔癌は治るだろうと放置されている場合が多く、進行が早いこともあって受診時にはかなり大きくなっていることもよくあります。

分類
TNM分類
T1 最大径が2cm以下の腫瘍
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 最大径が4cmをこえる腫瘍
T4 口唇:鱗屑組織たとえば骨髄質、下歯槽神経、口腔底、顔面の皮膚に浸潤する腫瘍
口腔:隣接組織たとえば骨髄質、舌深層の筋肉(外舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に浸潤する腫瘍
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ
治療

舌癌の根治治療としては再建外科の進歩に伴い、現在では手術治療が中心になっています。当科でも早期のものに対しては舌の部分切除やレーザーによる切除を行っています。頸部のリンパ節転移が認められたり腫瘍が大きくなっている場合には、舌腫瘍摘出および根治的頸部郭清術を行います。切除されてできた欠損部は大胸筋皮弁、腹直筋皮弁、前腕皮弁などで再建します。また進行例では手術療法以外にも放射線治療や腫瘍への栄養血管から抗腫瘍薬を注入する超選択的動注療法も行っています。

上咽頭癌

基本的概念

上咽頭腫瘍は鼻のいちばん奥の部位にできる腫瘍で、良性腫瘍としては血管線維腫・髄膜腫など、悪性腫瘍としては上咽頭癌(扁平上皮癌・腺癌)・悪性リンパ腫などがあります。初期には上咽頭腫瘍を疑わせる直接的な症状に乏しく、内視鏡による診察が重要になってきます。

上咽頭癌は60歳代が最も多くみられますが、若年者にもみられます。東南アジアや中国広東省などで高頻度にみられ、抗EBウイルス抗体が高値の者が多いことからEBウイルスの関連が強く示唆されています。多くは未分化または低分化の扁平上皮癌で、早期に遠隔転移をおこしやすいという特徴があります。

症状

鼻症状:腫瘍によって鼻の奥が閉塞されることによって鼻閉、一部の腫瘍では出血しやすく鼻出血などが起こります。

耳症状:腫瘍によって耳管開口部(耳への通路)が閉塞することによって耳閉感、さらに難治性の滲出性中耳炎が起こり耳閉感・難聴などが起こります。

頚部リンパ節腫脹:悪性腫瘍では頸部リンパ節転移にて頸部リンパ節の腫脹をきたします。このリンパ節腫脹によって上咽頭の悪性腫瘍が見つかるものが最も多いです。両側の頸部リンパ節腫脹もしばしばみられます。

神経症状:悪性腫瘍が頭蓋底・頭蓋内浸潤することによって脳神経症状をきたします。腫瘍が進展する部位によって症状は変わりますが、眼球運動障害をおこすものが比較的多いです。

咽頭症状:咽頭痛・嚥下痛などは少なく、症状は乏しいです。

分類
後上壁: 硬口蓋と軟口蓋接合部の高さから頭蓋底まで (C11.0,1)
側 壁: ローゼンミューラー窩を含む (C11.2)
下 壁: 軟口蓋上面 (C11.3)
TNM分類
T1 上咽頭に限局する腫瘍
T2 中咽頭、および/または鼻腔の軟部組織に進展する腫瘍
T2a 傍咽頭間隙への進展なし
T2b 傍咽頭間隙への進展あり
T3 骨組織、および/または副鼻腔に浸潤する腫瘍
T4 頭蓋内に進展する腫瘍、および/または脳神経、側頭下窩、下咽頭、眼窩に進展する腫瘍
傍咽頭間隙への進展とは、咽頭頭蓋底筋膜を越える後外側への浸潤を意味する
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 鎖骨上窩より上方の片側性リンパ節転移で、最大径が6cm以下
N2 鎖骨上窩より上方の両側性リンパ節転移で、最大径が6cm以下
N3 次のリンパ節転移をいう
a 最大径が6cmを超えるリンパ節転移
b 鎖骨上窩へのリンパ節転移
治療

上咽頭癌では一般的に放射線治療が中心となり、原発巣に対して手術を行うことは希です。当科では放射線治療を60~70Gy、放射線治療中及び後にシスプラチン・フトラフールといた抗腫瘍薬による化学療法を行っています。頚部リンパ節が残存している場合は頚部郭清術による腫脹リンパ節の切除を行っています。原発巣の腫瘍が大きい場合は超選択的動注療法も考慮します。

中咽頭癌

基本的概念

中咽頭腫瘍は軟口蓋の高さから舌根部までの範囲にできる腫瘍です。中咽頭は複雑な形をしており、扁平上皮・小唾液腺・リンパ組織など色々な構造物があるため、これらの組織から種々の良性・悪性腫瘍が発生することがあります。良性腫瘍としては乳頭腫・血管腫・多形腺腫・神経鞘腫・腺腫など、悪性腫瘍としては中咽頭癌(扁平上皮癌・腺癌)・肉腫・悪性リンパ腫などがあります。

中咽頭癌は飲酒と喫煙習慣が危険因子で、50~70歳代の男性に多く、女性の3~5倍みられます。原発部位では口蓋扁桃を含む側壁原発が半数以上を占めています。病理組織型では側壁型では低分化の扁平上皮癌が多いですが、上壁型では比較的分化型扁平上皮癌が多く、同じ中咽頭癌の中でも多様性がみられます。

症状

初期症状としては咽頭違和感、咽頭異物感、頚部腫瘤などが多いですが、原発腫瘍や頚部リンパ節がある程度の大きさになるまで無症状のことが多いです。

原発腫瘍が大きくなって周りに進展していくと、出血や痛み、開口障害、舌運動制限に伴う構音障害・嚥下障害、頭蓋底に進展した場合は下位脳神経症状なども見られるようになることがあります。

分類
TNM分類
T1 最大径が2cm以下の腫瘍
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 最大径が4cmをこえる腫瘍
T4 隣接組織例えば翼突筋、下顎骨、硬口蓋、舌深層(外舌筋)、喉頭に浸潤する腫瘍
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ節
治療

中咽頭は気道の一部をなすとともに食道の通過路で、構音・嚥下・呼吸など重要な役割を持っています。そのため、中咽頭腫瘍の治療にはいろいろな機能障害の起こる可能性があります。

中咽頭癌での治療はできるだけ機能の温存するとともに治療成績の向上させるために、治療の基本として当科ではシスプラチンという抗腫瘍薬を放射線治療と同時に使用するシスプラチン少量同時併用放射線治療を60~70Gy行っています。放射線治療で根治が難しいと判断した場合には外科的手術療法にて腫瘍の摘出を行います。このとき腫瘍の摘出にて欠損した部位には皮弁や腸管を使用した再建術を行います。また、手術療法以外にも腫瘍への栄養血管から抗腫瘍薬を注入する超選択的動注療法も行っています。

当科の中咽頭癌の治療成績

1991年から2001年までの10年間に当科にて治療を行った中咽頭癌は34名で、その内28名が進行癌でした。

癌が進行してから受診される割合が高いです。

全体の5年生存率は47.3%で、T分類・リンパ節の有無によって生存率に有意差を認めます。(原発巣の進行度が低い、リンパ節がない場合の治癒率が高いです。)

のどの症状は早めに近くの耳鼻咽喉科で診察してもらい、早期に癌を発見してもらうことが重要です。

下咽頭癌

基本的概念

下咽頭に発生する腫瘍の大部分は扁平上皮癌で良性腫瘍は比較的少ないです。

下咽頭癌は頭頸部癌の内10%余りを占める癌で最近は徐々に増加傾向を示しています。発癌には喫煙・飲酒の習慣が大きく関与しているといわれています。また下咽頭は食道とつながっており、食道への進展することが多く、また頸部へのリンパ節転移も高頻度にみられます。

症状

下咽頭癌の初期には特異的な症状はなく、咽頭異常感や閉塞感ぐらいです。ただ半数ぐらいには飲み込んだときに少しチクッとするなどの痛みを訴えられます。場所的にも非常に見難い部位であるために発見されにくい疾患です。癌が進行すると咽頭痛が増強してきたり、血痰、嗄声、嚥下障害、呼吸困難などの様々な症状が出てくることが考えられます。また、下咽頭癌は非常に頸部リンパ節転移をおこしやすいため、頸部リンパ節腫脹が初発症状として見られることも多いです。

分類
TNM分類
T1 下咽頭の1亜部位に限局し、最大径が2cm以下の腫瘍
T2 片側喉頭の固定なく、下咽頭の1亜部位をこえるか、隣接する1部位に浸潤する腫瘍、または最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 片側喉頭が固定するか、最大径が4cmをこえる腫瘍
T4 喉頭軟骨や輪状軟骨、頸動脈、頸部軟部組織、椎前筋膜及び同筋、甲状腺、および/または食道など隣接組織に浸潤する腫瘍
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ節
治療

下咽頭癌は前述のように受診時すでに腫瘍が大きくなっていることが多いです。そのため手術による腫瘍の切除が主体になっているのが現状ですが、腫瘍が余り進展していない早期の場合は放射線治療を行うこともあります。手術で咽頭と喉頭を切除した後は食物が通る経路を作らなければなりません。その再建法には胃を使う方法と腸管を使う場合がありますが、腸管を使うことのほうが多いです。

当科の下咽頭癌の治療成績

1991年から2001年までの10年間に当科にて治療を行った下咽頭癌は33名で、その内97%の32名が進行癌でした。

下咽頭癌は見つかりにくい場所にあり、ほとんどの方が癌が進行してから受診されています。

全体の5年生存率は35.2%で、T分類、リンパ節転移の 有無では5年生存率に有意差は認めませんが、原発巣の進行度が低い方が治癒率が高い傾向があります。

のどの症状は早めに近くの耳鼻咽喉科で診察してもらい、早期に癌を発見してもらうことが重要です。

甲状腺癌

基本的概念

女性、特に中年以降では5%ぐらいに甲状腺に腫瘍をもっている人がいるといわれています。超音波検査では年齢によって違いますが10%の人に甲状腺になんらかの腫瘍のような病変がみつかることがあります。その中で癌がみつかるものは2~4%位あります。このように甲状腺腫瘍というのは非常に多いのですが、小さな腫瘍が大きくならずにとどまっていることが多いため、経過を見るだけですむことも多々みられます。

甲状腺の主な良性腫瘍として濾胞腺腫、腫瘍性病変として腺腫様甲状腺腫があります。濾胞腺腫は甲状腺の腫瘍のうち最も多いものですが、濾胞癌との鑑別が難しい場合があります。腺腫様甲状腺腫は本当の腫瘍ではなくて甲状腺内に複数の腺腫のように見える結節や嚢胞がみえるものをいいます。

悪性腫瘍は乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌、未分化癌、悪性リンパ腫、その他の悪性腫瘍、転移性腫瘍に分けられます。乳頭癌は甲状腺癌のなかで最も多い癌です。ゆっくりと増大するのであまり大きさが変わらないこともあります。リンパ節に転移しやすくリンパ節の転移から乳頭癌に気付くこともあります。

症状

甲状腺腫瘍の症状は甲状腺ホルモンに異常をきたすかどうかで、かなり多彩な症状を呈することがあります。一般の甲状腺腫瘍を持つ患者さんは甲状腺腫大を訴えて来院されることが多く、他の病気で病院にかかっていて甲状腺の異常を指摘されるといった無症状のものも多いです。

組織学的分類
TNM分類
T1 甲状腺に限局し最大径が1cm以下の腫瘍
T2 甲状腺に限局し最大径が1cmをこえ4cm以下の腫瘍
T3 甲状腺に限局し最大径が4cmをこえる腫瘍
T4 大きさを問わず甲状腺の被膜をこえて進展する腫瘍
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 所属リンパ節転移あり
N1a 患側の頸部リンパ節転移
N1b 両側、正中または対側の頸部リンパ節あるいは上縦隔リンパ節転移
治療

甲状腺腫瘍の治療の第一選択は手術ですが、検査の結果良性腫瘍と診断された場合は基本的に経過観察となります。しかし良性腫瘍としての確定診断をするためには組織の切除標本が必要になります。そのため良性悪性の判断がつけがたい場合場合は手術の適応になることもあります。

悪性腫瘍でも治療は手術による摘出になりますが、未分化癌では化学療法、放射線療法に手術を併用し、悪性リンパ腫では化学療法と放射線療法による治療を行います。

唾液腺癌

基本的概念

唾液腺腫瘍は耳下腺腫瘍・顎下腺腫瘍・小唾液腺腫瘍に分けられますが、大部分は耳下腺腫瘍で次いで顎下腺腫瘍が多くみられます。唾液腺腫瘍の特徴として良性腫瘍、悪性腫瘍共に組織型が多彩で、長期予後は組織型によって大きく左右されます。

良性腫瘍では多形腺腫とワルチン腫瘍が多く、それぞれ全耳下腺腫瘍のうち約70%と約15%をしめます。顎下腺腫瘍ではほとんどが多形腺腫です。多形腺腫はその名のとおり上皮性腫瘍細胞の部分と非上皮性の部分が混在する構造を示しています。30~60歳に多く、発育は緩徐で比較的硬い表面平滑な腫瘤として触れます。通常は一側性で単発性ですが経過中に悪性化することがあります。ワルチン腫瘍は腺リンパ腫とも言われて、50~70歳に多いです。発育は緩徐で嗅条の比較的軟らかい腫瘤として触れます。多発性、両側性のこともあります。

悪性腫瘍も組織型は多彩で様々なものがありますが、腺癌、粘表皮癌、腺様嚢胞癌、多型腺腫内癌、扁平上皮癌などがあります。

唾液腺上皮性腫瘍の組織分類(WHO,1991)
  1. 腺腫 adenomas
    1. 多形腺腫 pleomorphic adenoma
    2. 単形腺腫 monomorphic adenoma
      1. 腺リンパ腫Warthin腫瘍) adenolymphoma(Warthin tumor)
      2. 好酸性腺腫(膨大細胞腫) oxyphilic adenoma(oncocytoma)
      3. その他の単形腺腫 other monomorphic adenoma
  2. 癌腫 carcinomas
    1. 腺房細胞癌 acinic cell carcinoma
    2. 粘表皮癌 mucoepidermoid carcinoma
    3. 腺様嚢胞癌 adenoid cystic carcinoma
    4. 多形性低悪性腺癌 polymorphous low grade adenocarcinoma
    5. 上皮・筋上皮癌 epithelial myoepithelial carcinoma
    6. 基底細胞腺癌 basal cell adenocarcinoma
    7. 皮脂腺癌 seboacinous carcinoma
    8. 乳頭状嚢胞腺癌 papillary cystadenocarcinoma
    9. 粘液性腺癌 mucinous adenocarcinoma
    10. 好酸性腺癌(膨大細胞癌) oncocytic carcinoma
    11. 唾液導管癌 salivary duct carcinoma
    12. 腺癌 adenocarcionoma
    13. 悪性筋上皮腫(筋上皮細胞癌) malignant myoepithelioma
    14. 多形腺腫内癌(悪性混合腫瘍) carcinoma in pleomorphic adenoma
    15. 扁平上皮癌 squamous cell carcinoma
    16. 小細胞癌 small cell carcinoma
    17. 未分化癌 undifferentiated carcinoma
    18. その他の癌 other carcinoma
症状

耳下腺腫瘍の症状は一般的には耳下部の無痛性・単発性の時間をかけてゆっくりと大きくなる腫瘤で、良性ではまず顔面神経麻痺の症状はおこりません。悪性腫瘍を疑わせる症状としては顔面神経麻痺、腫瘍の急速な増大、自発痛、周囲組織との癒着などが上げられます。

顎下腺腫瘍の症状は顎下部にできる弾性硬の腫瘤です。悪性腫瘍では腫瘤は硬く、表面が凸凹で可動性が悪いことがあります。また、自発痛や顔面神経麻痺等をみることもあります。

分類
TNM分類
T1 最大径が2cm以下の腫瘍で、実質外進展なし
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍で、実質外進展なし
T3 実質外進展を認めるが、第7脳神経浸潤の内腫瘍、および/または最大径が4cmをこえるが6cm以下の腫瘍
T4 頭蓋底、第7脳神経に浸潤する腫瘍、および/または最大径が6cmをこえる腫瘍
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ節
治療

唾液腺腫瘍の治療は手術による摘出が基本です。手術には腫瘍を摘出することと、摘出した腫瘍を病理検査に提出して腫瘍の組織型を確定する2つの目的があります。耳下腺の手術を行う場合、耳下腺内を顔面神経という顔を動かす神経が貫通・走行しているため、良性腫瘍の場合はこの神経を保存し腫瘍を摘出することが重要になります。ただ悪性腫瘍の場合は顔面神経の切除が必要となることがあります。当科では手術中に神経刺激装置を使用し、顔面神経を確認しながら腫瘍の摘出を行っています。また、悪性腫瘍では手術に追加して放射線療法や化学療法を併用することもあります。

聴器癌

基本的概念

聴器の良性腫瘍として外耳道の皮脂腺腫や耳垢腺腫、中耳のグロムス腫瘍などがあります。グロムス腫瘍は中耳傍神経節腫ともいい、頸静脈球型(jugular type)と鼓室型(tympanic type)に分けられます。聴器に発生する悪性腫瘍はまれで、全頭頸部悪性腫瘍のうち1%前後といわれています。外耳・中耳癌は50歳以降に多くみられます。

症状

耳漏・耳痛がよく見られる症状で、外耳道が閉塞されたり中耳に腫瘍が及べば難聴をきたします。耳漏でも出血性のものは注意が必要です。

その他、腫瘍が進展することで顔面神経麻痺や他の脳神経症状が出てくることがあります。

Stellによる外耳・中耳癌に対するT分類
T1 発生部位に限局する腫瘍、すなわち顔面神経麻痺や骨破壊がない
T2 発生部位をこえて進展する腫瘍で、顔面神経麻痺やX線検査上骨破壊が認められるが、原発部位をこえる進展がない場合
T3 臨床的あるいはX線検査にて周辺組織または臓器(硬膜、頭蓋底、顎関節など)への進展が明らかな場合
Tx 以前に診察され、他院にて治療された患者を含めてT分類を行う上でデータが不十分な患
治療

外耳・中耳癌の治療は頻度が少ないことも相まって確立したものはありません。手術による完全摘出が主体になるとの意見もありますが、切除範囲が非常に広範囲になることが考えられます。当科では通常の放射線療法に化学療法を併用し、さらに定位手術的照射を行うことにより治療を行っています。